銀行破綻の備え目標額到達へ

銀行の破綻時に預金保護に使う保険の積立額が2021年度末、目標の5兆円に達する見通しで、これは10年を最後に銀行の破綻はなく、順調に積み上がっているためのようです。

目標到達に伴い、保険料を納める金融機関は負担軽減を求めているようですが政府は慎重姿勢を崩すことなく、預金の膨張も踏まえ、目標を実額から比率に変えることを含め官民で妥当な積み立て水準を探ります。

預金保険は各金融機関が毎年、前年度の預金量に対し一定の料率で保険料を支払い、1人1000万円までの預金保護など破綻処理に必要な資金を「責任準備金」として積み立てる制度で、1971年に施行した預金保険法に基づき、銀行や信用金庫、信用組合など預金を扱う全ての金融機関が拠出の義務を負っています。

責任準備金の管理や破綻した金融機関への資金注入は政府組織の預金保険機構が担っており、現在は責任準備金の積立額を21年度末までに14年度末比2.1倍の5兆円に積み増すことを目標としています。

1994年度に8760億円あった準備金は、90年代後半から2000年代前半の金融機関の相次ぐ経営破綻に伴い02年度には欠損(不足)が4兆65億円まで膨らんでおり、このとき減った5兆円を積み立て直せば、平成金融危機並みのショックがきても耐えられるというのが前回15年の検討会議の結論で5兆円の根拠となっています。

金融機関の破綻は10年の日本振興銀行が最後となっており、責任準備金は20年度末に4兆7258億円となり、「21年度末までに5兆円に達するのはほぼ確実」(金融庁幹部)な情勢で、保険の実効料率は15年度から徐々に切り下がり、21年度には預金に対して0.031%になったとはいえ、規模の小さい地銀でも毎年数億円かかり負担は重く、長引く超低金利で収益環境が悪化するなか、とりわけ規模の小さい金融機関からは目標到達をにらみ積み立ての停止を求める声も出ているようです。

預金保険機構は今年7月に「預金保険料率に関する検討会」を設置し、各業態の民間金融機関や有識者らが参加、中長期的な料率のあり方について非公開で検討を進めてきているのですが、預金保険機構や所管する金融庁はまだ明確な立場を示していない中、危機への備えから積み立てを継続する意志が強いというのが関係者共通の見方となっています。

背景には新型コロナウイルス禍で先行きが見通せない経済情勢への不安があり、政府の助成金や無利子融資により、足元の倒産件数は過去最低水準を保っているとはいえ、膨らんだ企業債務の返済が迫る時期に資金を確保できずに息切れする企業が増える懸念は拭えていません。

長引く金融緩和で日本全体の預金量が膨らんでいることも判断に影響しており、預金保険機構によれば日銀が「量的・質的金融緩和」を導入する直前の13年3月末に982兆円だった金融機関の総預金は、21年3月末に1346兆円まで増え、5兆の根拠となった平成金融危機の際は700兆円程度でした。

預金の総量が増えれば、破綻時に保護しなければならない金額も増えることになり、コロナ禍の財政出動で預金増に拍車がかかるなか、準備金の積み立てを増やしたいという事情もあります。

議論の落としどころを探る上で参考になるのが海外の事例で、海外の預金保険の目標は、預金の総量に対する「率」で定めるのが主流となっており、アメリカは短期的には1.35%、中長期的には2%を目標にしており、直近で1.35%を達成していたが、コロナ禍での預金増で21年3月末には1.25%に低下、現在各金融機関に積み増しを求めている最中で、19年と20年に4件ずつ金融機関が破綻していることも影響しています。

欧州連合(EU)は24年までに0.8%の積み立てを目指しており、実額を積み立て目標にしているのは日本やバハマなどごく限られた国しかないようで、年度内の結論を目指す今回の日本も、目標を実額から預金額に対する比率に変えることが論点の一つになります。

財務の健全性が高い金融機関ほど低い保険料率にする「可変料率」も検討課題として残り、金融庁は19年の金融行政方針で導入検討を打ち出したものの、官民で調整がつかず今回の検討会でも論点から外れています。

預金保険の積立額が目標の5兆円に達することは、約20年を経て平成金融危機の爪痕が一つ消えることを意味しており、金融システムの最後の防波堤である預金保険の機能と適切な負担水準の折り合いをどうつけるかが問題ですね。

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