給料遅配の危機を乗り越え、逆に社員の結束が強まった話

社長、本当によく耐え抜きましたね。

「来月の給料が払えないかもしれない」。

この恐怖は、経営者にとって夜も眠れなくなるほどの劇薬です。

今回ご紹介するのは、まさにその地獄のフチから生還し、あろうことか組織の絆をガッチリと深めてしまった、あるIT企業(社員15名)の社長の実話です。

ピンチの時に会社を救うのは、綺麗事の経営理念ではなく、「圧倒的な情報開示」と「泥臭い一手」の組み合わせです。

資金ショートまで、あと20日。

私が出会った時、その会社の通帳残高は、翌月の給与総額に対して明らかに足りていませんでした。

メインバンクに駆け込んでも「追加融資は審査に3週間かかります」と、完全に役所仕事の対応、いわゆる、資金ショートの「Xデー」まであと20日というカウントダウン状態。

社長は「社員にだけは迷惑をかけられない。いっそ役員報酬をゼロにして、個人のカードローンで借りて補填するか・・・」と、完全に視野狭窄に陥っていました。

そこで私は、社長の肩を叩いてこう言いました。

「社長、サラ金に走るのだけはやめてください。それをやったら終わりです。まずは現状の数字を全部洗い出して、銀行がNOと言えない『リスケ(返済猶予)の計画書』を3日で作りましょう。そして、社員に本当のことを話すんです」

銀行の「裏側」を突いた、10日間の時間稼ぎ

元銀行員の私から見れば、銀行が一番嫌がるのは「急に『明日破綻します』と言われること」。

逆に、3ヶ月先までの資金繰り表をカチッと作り、「これこれの理由で今月は返済を止めますが、3ヶ月後にはこのマーケティング施策で売上が立つので戻せます」と論理的に迫れば、彼らはNOと言えません。

すぐに銀行へ乗り込み、まずは毎月の返済額を10分の1に減額する交渉をまとめました。

これで、ひとまず「今すぐ死ぬ」という最悪の事態は回避です。

しかし、それでもまだ、今月の給料の満額支給には数十万円が足りない状態でした。

「隠し事」をやめた瞬間、風向きが変わった

ここで社長が決断しました。

全社員を集め、会社の預金通帳のコピーと、私が作った資金繰り表をそのままプロジェクターに映し出したのです。

「私の経営力不足で、今月の給料が予定通り全額払えないかもしれない。

5日遅れるか、あるいは今月だけ7割支給にして、翌月に130%にして返すか、みんなに相談させてほしい。本当に申し訳ない」

社長が頭を下げた時、会議室は一瞬、静まり返りました。

しかし、次に上がったのは、社長が予想もしなかった声だったのです。

  • 「社長、社長がそこまで数字を見せてくれるなら信じます。うちは独身が多いから、今月は5割でも生きていけますよ」
  • 「あの未回収の売掛金、僕が今から相手の社長に頭を下げて、今週中に振り込んでもらえるよう交渉してきます!」

社員たちは怒るどころか、当事者意識に火がついたのです。

それまで「経営のことは社長が考えること」と他人事だったメンバーが、一気に「自分たちの会社をどう残すか」という戦友に変わった瞬間でした。

攻めの「即時キャッシュ化」で奇跡の満額支給

社員の火がついたあとの動きは迅速でした。

私たちは、守りのコスト削減と同時に、即座に現金を作る「攻め」のマーケティングに動きました。

実践した「即時キャッシュ化」の具体策

施策内容効果とスピード
既存顧客への「年間保守の前払い」提案15%割引を条件に、3社から1年分の費用を即日一括入金してもらうことに成功。
未回収売掛金の回収担当社員が取引先に日参し、今月分の支払いを5日前倒ししてもらう。
即効性の高い助成金の申請手続き専門家(私)のルートを使い、受給予測を立てて次回の融資の交渉材料にする。

結果として、給料日の2日前、通帳には給与総額を上回るキャッシュが滑り込みました。

遅配の危機を、文字通り「ゼロ日」で回避したのです。

危機を乗り越えた会社は、もう潰れない

この事件から1年。

その会社は今、以前の2倍の利益を出す組織になっています。

驚くべきことに、あの危機のあと、退職者は1人も出ていませんし、それどころか、社員が自発的にコストを意識し、新しい売上案件を引っ張ってくる体質に生まれ変わりました。

ピンチの時に、社長が1人で抱え込んで、サラ金や怪しいファクタリングに手を染めていたら、この信頼関係は絶対に生まれ得なかったでしょう。

泥沼の資金繰りから抜け出すために必要なのは、気合や根性ではありません。

正しい資金繰り表による現状把握、銀行の裏をかく交渉術、そして社員を信じる覚悟です。